2004年12月、私は神奈川から根雪になった札幌へ移住しました。あれから約20年。今では日本地図を眺めるときの感覚そのものが、移住前とはまったく違うものになっています。「東京と北海道って、思っていたより近いんだな」——そう感じるようになったのです。この記事では、「移住なんて無理」とはじめから決めつけてしまっている人にも、逆に「今の時代、大したことではない」と軽く見ている人にも知ってほしい、実体験からたどり着いた視点の変化についてお伝えします。
「移住なんて無理」と思い込んでいませんか?
私が札幌への移住を考え始めたとき、周囲からよく言われたのは「縁もゆかりもない土地に行くのは大変だよね」という言葉でした。たしかに、仕事を探す、住居を探す、これまでの住居を手放す、家族の合意を得る——やることを挙げればきりがありません。何一つ着手していなかった最初の頃は、私自身、正直なところ絵空事のように感じていました。
けれど実際に一歩ずつ動き始めてみると、想像していたほどのハードルではありませんでした。詳しい人の力を借りながら、少しずつ確実に着手していけば、それぞれの課題はちゃんと片付いていきます。「もう無理」と思っていたことの正体は、たいてい「知らないこと」への漠然とした不安だったのだと、今振り返って思います。この不安をひとつずつ解きほぐす具体的な準備の進め方は、また別の記事で詳しくお伝えします。
「移住なんてどうってことない」と思っていませんか?
一方で、情報があふれる今の時代だからこそ、逆の思い込みも生まれやすくなっています。「何でもネットで調べられるし、住む場所を変えるだけでしょう?」という軽さです。
正直に言うと、私自身も移住の手続きそのものは、想像していたよりずっとスムーズに進みました。しかし、住む場所を変えることに成功しても、「移住」そのものが成功したとは限りません。何を求めて移住するのかを言語化しないまま動いてしまうと、「居住地を移すことはできたけれど、移住は失敗だったかもしれない」という状態に陥ることがあります。移住の手続きが片付くことと、暮らしが自分の望む形になることは、別の話なのです。この違いに気づかず後悔してしまうケースについても、別の記事で率直にお話しします。
私が実感した「視野が広がる」感覚
移住を考える前、私は東京都内の某所に毎日電車通勤しながら仕事をしていました。あるとき、プロジェクトで数か月間札幌に滞在する機会があり、そこで感じたのが「札幌ってへんなところだなぁ」という驚きでした。少し中心部を離れれば大きな自然があり、リスやキタキツネに出会えるかと思えば、テレビをつければ地元の人気番組がリアルタイムで見られる。大通や駅前には高いビルがそびえており、家電量販店もある。田舎と都会が共存するこの街に、私は心の底から「住みたい」と思ったのを覚えています。
このとき芽生えた感覚は、単に「良い土地を見つけた」というだけではありませんでした。自分が「住む場所」についての選択肢の幅そのものが、一気に広がった感覚です。住む場所は今いる場所だけではない。そう気づけたことが、その後の人生の選択肢を増やしてくれました。
日本を「狭く」感じるようになった
移住してからの20年、私は何度も東京と札幌を行き来してきました。最初のうちは「北海道は遠い場所」という感覚がありましたが、行き来を繰り返すうちに、「案外、日本ってそんなに広くないのかもしれない」と感じるようになりました。気づけば妻も時間を見つけては日本中を飛び回っています。顔を合わせる時間は長くなくても、それぞれが自由に動き回れることを、楽しいと感じています。
飛行機での移動が当たり前の選択肢になると、沖縄さえも近く感じるようになりましたし、東京への出張も「特別な遠出」ではなくなりました。一つの場所に根を張っていると身近なところしか目に入らない。その殻を破れば日本全体を身近に感じられるようになる——これは、移住する前には想像していなかったマインドの大きな変化でした。
あなたにとって「移住」とは何ですか?
ここまで読んでくださった方に、最後にひとつだけ問いかけさせてください。
あなたにとって、「移住」とは何でしょうか?
何をもって「私の移住は成功だった」と言えるのか。ここを自分の言葉で整理しておかないと、移住することそのものが目的になってしまい、「なんでこんな面倒なことをしているんだっけ?」と迷子になってしまいます。言い換えれば、この問いへの自分なりの答えさえ持てれば、面倒で苦労の多い移住の準備プロセスは、想像以上に楽しく、輝かしい未来への確かな歩みにもなります。
「無理だ」と決めつける必要もなければ、「どうってことはない」と軽く見る必要もありません。ただ、自分にとっての移住の意味を、少しずつ慌てずに自分の言葉にしていく。それが、視野を広げる最初の一歩になるはずです。
まとめ
移住は「困難」か「楽勝」かの二択ではなく、視野の広げ方の問題です。20年前の単なる偶然であった数か月間の出張をきっかけに、心の底から「札幌に住みたい!」と思った私自身の経験が、その証になれば幸いです。次回は、実際に私が移住を決めてから今日までの20年間を、もう少し詳しく振り返っていきます。

