観光DXとは何か 〜 海外の現場で見えた「文化と技術の共存」

「観光DX」という言葉を聞いて、具体的に何を思い浮かべるでしょうか。多言語対応のアプリ、キャッシュレス決済、混雑予測 〜 どれも間違いではありませんが、それだけでは本質を捉えきれていないと感じています。私はこれまで仕事や旅行でサンフランシスコ(2023年)、ミュンヘン(2024年)、フランクフルト(2025年)を訪れ、それぞれの街で「これが観光DXの実態か」と実感する場面に何度も出会いました。この記事では、観光庁が示す定義を押さえつつ、海外の現場で見た具体的な光景と、私自身が大事にしたい観光DXの考え方をお伝えします。地方創生DX支援カテゴリの最初の記事として、今後のシリーズ(都市別の詳細レポート)への入り口にしたいと思います。

目次

観光DXとは何か 〜 観光庁が示す定義と目的

観光庁は観光DXを「業務のデジタル化による効率化だけでなく、収集データの分析・利活用により、ビジネス戦略の再検討や新しいビジネスモデル創出といった変革」と位置づけています。単なるIT導入ではなく、データを起点にした戦略そのものの変革だという点が重要です[1]

具体的には、地域レベルではシームレスな予約・決済機能を備えた地域サイトの構築やDMO(観光地域づくり法人)によるデータ分析型マーケティングが、事業者レベルでは予約管理システム(PMS)の導入やAPI連携によるレベニューマネジメントの高度化が進められています[1-1]。つまり観光DXは「旅行者の利便性」「観光産業の生産性」「観光地経営の高度化」という3つの軸を同時に満たすための手段だと理解しています。

なぜ今、地方創生に観光DXが欠かせないのか

2026年3月27日に閣議決定された新しい「観光立国推進基本計画」では、訪日外国人旅行者数6,000万人のうち4,000万人をリピーターにするという目標が掲げられました。リピーターは地方部への関心が高く、日本文化への理解も深いことが理由とされています[2]。同時に、観光客の戦略的な誘客と住民生活の質の確保を両立させる地域を、現状の47地域から100地域へ倍増させる目標も示されました[2-1]

この2つの目標は一見別々に見えて、実は同じ課題を指しています。観光客を増やすことと、地域の暮らしを守ることは対立するものではなく、技術によって両立させるべきものだということです。だからこそ、自治体やスモールビジネスにとって観光DXは「余力があれば取り組むもの」ではなく、地方創生そのものを左右する土台になりつつあると感じています。

海外で実感した「技術と文化が共存する」観光DXの現場

理屈だけでなく、実際に自分の目で見た光景を紹介させてください。

サンフランシスコでは、ケーブルカーやバスの中で、乗客がロープを引っ張ると、その先が電子ボタンにつながっていて運行システムに連携している場面に出会いました。バス停には「あと何分で到着するか」がわかる表示もあります。一見アナログな操作でも、裏側はきちんとデジタル化されている。そんな「アナログな体験を残しながらデジタルで支える」設計に感心しました。さらに印象的だったのは、空港やバス、スーパーに犬が当たり前のようにパートナーとして同行している光景です。空港には犬専用のトイレまであり、Uberを介して依頼主と評価し合いながら犬の世話を請け負う「ドッグシッター」という仕事も成立していました。信頼を可視化する仕組みが、新しい働き方まで生み出しているのです。

ミュンヘンでは、そもそも改札という概念がありませんでした。駅はオープンスペースで、誰もが自由に行き来できます。指定席も座席背面のLCD表示で示されるだけで、無表示なら自由に座れる。チケットは個人情報の登録なしにアプリで購入でき、家族分をまとめて管理できるうえグループ割引まであります。性善説に近い設計ですが、主要駅を過ぎたあたりには検札があり、無賃乗車への罰金は非常に高い。「自由」と「規律」のバランスを技術で取っている印象を受けました。

フランクフルトでは、動物園でも普通にデビットカードが使え、日常の決済インフラが観光の場でもそのまま機能していることに驚きました。一方で駅の売店などAmerican Express Cardが使えない場所もあり、ApplePayに登録した別カードで問題なく支払えたのも実体験として印象に残っています。便利さは一様ではなく、地域や店舗ごとの事情がまだら状に残っている 〜 その現実も含めて観光DXの実態だと思います。

これらの街の詳しいエピソードは、今後のシリーズ記事で写真も交えながら一つずつ紹介していく予定です。

国内でも進む観光DXの優良事例

海外だけでなく、国内でも観光DXは着実に進んでいます。観光庁が2024年3月にまとめた「観光分野のDX推進に向けた優良事例集」では、旅行者の利便性向上・周遊促進の分野で志賀高原や箱根町、しまなみ海道が、観光産業の生産性向上の分野では城崎温泉や福井県、ニセコが取り上げられています[3]。ニセコのように北海道の一地域が、データ活用による観光地経営の先進事例として全国に紹介されているのは、地方創生に取り組む立場として励みになります。

私が大事にしたい観光DXの考え方

海外の現場を見て、私が観光DXについて大事にしたいと思うようになった考えがあります。それは「今までの慣習や文化も大切にしながら、人々が豊かに旅行できるような技術や仕組みを、だいたんに組み入れていくこと」です。

観光DXとは、かたくなに古いものを守り通すことでも、目新しいものをスピーディに追いかけることでもありません。何が心地よいのか、何が便利なのか、何が楽しいのか 〜 旅行者とサービス提供者の双方から考え抜くことがキーになります。誰かが我慢をしたり、損をしたり、利益を囲い込んだりする状況からは、良い観光DXは生まれない。時には損得を超えて守るべきものがあるはずだ、というのが私の実感です。

まとめ 〜 地方創生DX支援として、これから伝えたいこと

観光DXは、単なる便利なツールの導入ではなく、地域の文化や暮らしを守りながら旅行者の豊かさを実現するための考え方そのものです。海外で見た具体的な光景と、観光庁が示す政策の方向性は、根っこの部分でつながっていると感じています。

次回以降は、サンフランシスコ・ミュンヘン・フランクフルトそれぞれの街で出会った光景を、写真も交えながらより詳しくレポートしていきます。ゆくゆくは、これらの体験をさらに膨らませた形で、Kindle書籍『海外にみる観光DXの紹介』としてもまとめる予定です。地方創生DX支援カテゴリの発信を通じて、自治体やスモールビジネスの方々に、技術と文化を両立させるヒントをお届けしていきたいと思います。


参考文献


  1. 観光DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進 | 観光庁(最終更新:2026年6月30日)↩︎↩︎
  2. 2026年度からの新「観光立国推進基本計画」の注目ポイントは? | トラベルボイス(2026年3月27日閣議決定)↩︎↩︎
  3. 「観光分野のDX推進に向けた優良事例集~地域一体で進める観光DX~」を作成いたしました | 観光庁(2024年3月公表)↩︎
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